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“心のおそうじ” (あおばタイムズ 64)

 「最近、頻繁に悪い夢を見ます」といったご相談を受けることがあります。このような時に私は心療内科医として、十分な睡眠をとっていただけるよう、睡眠薬を処方させていただくことに主眼を置いていました。睡眠不足が続くと脳に疲れが蓄積し、様々な症状(めまい、動悸、冷や汗や腹部症状といった身体症状、あるいはイライラや不安感といった精神症状など)が出る自律神経失調症と呼ばれる状態になったり、果ては物事に対する意欲を失ったり気分的に落ち込んでしまうような「うつ」の状態になってしまう危険性があるからです。一日の脳の疲れを十分な睡眠をとって解消することは、とくに目を酷使しながら夜遅くまで長時間にわたって活動する現代人にとっては、健康維持のための大きなポイントと言えます。
 ある時会合で、「最近、見ると疲れきってしまうような悪い夢を見ることが多いのですが…」という質問を受けました。私は医者の立場から先に述べたような内容をお話ししたのですが、同席された催眠療法をなさっている先生のお答えは次のようなものでした。「つらい感情を伴う夢を見るということは、それによってあなたの心の深いところに蓄積された感情が“出て行っている”のですから、決して悪いことではありません。」と。このことは私にとってカルチャーショックでしたが、とても重要なことを教えていただけたように感じました。
 私たちは、いわゆる「悪いこと」―つまり、自分がマイナスの感情(=怒りや悲しみ、つらさ、苦しさ…といった心地よくない感情)を持つような経験をすると、それを「よくないこと」としてとらえてしまう傾向があります。しかしこの、「悪い夢をどのようにとらえるか?」―という話からすると、マイナスの感情を経験することは決して悪いことばかりでもないように思われます。つまりマイナスの感情が出るというのはある意味、過去につらい経験をした記憶が刺激され、その感情が自分の深いところから外部へ出て行っている―というふうにもとらえられるわけです。ですからマイナスの感情を経験するたび、自分自身が内側に持っていたドロドロとした感情が出て行き、心が徐々にスッキリしていく…とも考えられます。様々な苦しい経験を積まれた方々が清冽で爽やかな人格である場合が多いのも、なるほどうなずけます。
 このように誰もが経験するであろうマイナス感情の表出を、“消えてゆく姿”と表現した宗教家がいます。『世界人類が平和でありますように』という言葉を広めた五井昌久先生です。もし自分が悪い感情をもったとしても、それは“消えてゆく姿”であって自分の本質そのものではないのだから、かえって歓迎すべきことである。むしろそのような時には「自分を責めてしまうこと」こそ避けなければならない―と先生は言われます。このようにして、現在の社会に多く見られるような“批判が批判を生みながら増殖するマイナス感情の連鎖”を断ち切ることができれば、私たちの世の中はもっと住みやすくなるにちがいありません。

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