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“良い?悪い?” (あおばタイムズ 59)

 失敗するのは…良いことでしょうか? 悪いことでしょうか?
 病気になるのは…良いことでしょうか? 悪いことでしょうか?
 物事について「これは良いこと」だとか「これは悪いこと」だと言って勝手に判断するのは人間ぐらいのもので、ほかの動物や植物たちは、きっとそのようなことはしていないと思います。「晴れているから、よい一日」、「雨降りだから、ゆううつな一日」…なんて言っているのも、おそらく人間だけなのではないでしょうか。
 カウンセリングや心療内科の診察で「うつ」になった方にお会いする機会が多いのですが、お話を聞いていると今回のテーマに関連したことをしばしば考えさせられます。あるお二人の患者さんがいて、同じ時期に、同じ薬を同じような量使って、程度的にも同じ「うつ」を治療し始めたとします。…ところが数ヶ月間、薬を使って治療を続けたところで、お二人の回復に差がみられてくることがあります。お一人の方は、こう言います。「先生、全然よくなりません。以前は何でもやりたくて積極的に動く方だったのですが、今は全然やる気になりません。やる気が出ないので、ずっと家でじっとしているばかりです。家族からは以前よりも元気そうだと言われますが、まったくよくなっていないと思います。…」もうお一人の方は、診察の時にはあまり多くを語りません。しかし時とともに少しずつ表情が和らいできているように感じられ、少なくとも徐々に回復しているのはまちがいなさそうです。
 このようなお二人のちがいは、一体どこからくるものなのでしょうか?…医者である私の目から見れば、お二人とも確実に、以前よりも「うつ」の症状が軽くなって回復に向かいつつあることはまちがいなさそうです。しかしお一人は「まったくよくなりません」と言い、もうお一人はとくに何もおっしゃいませんが、目に見えてよくなってきている…ということです。お一人には「うつになる前とまったく同じ状態に戻ることしか考えていない」といういわば定められた『目標』があり、もうお一人には「きっとよくなるだろう…」という、あまり明確ではないかもしれませんが“希望”がある…という違いのようにも思えます。
 この話に関して心に浮かぶのは、欧米の進んだ文明が南の島々へ入ってきた頃にサモア島の酋長であったツイアビという人の語った言葉…『パパラギ』というロングセラー(岡崎照男訳・立風書房刊)の中に収められている言葉です。―“それゆえあらゆる考えを正しくたどるなら、だれでも、結局いつも自分が愚かなままであり、自分で出すことのできない答えは大いなる心におまかせするほかないことに気がつく。”…人間が自らの力でコントロールできる範囲と、それを超える領域とを区別することは、生きてゆくうえで大切なことなのかもしれません。

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