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“アラスカの太陽” (あおばタイムズ 54)

 写真家・星野道夫さんは、その人生の後半二十年近くをアラスカの地で過ごしました。四十四歳の時、テントで就寝中にヒグマに襲われてお亡くなりになったのですが、星野さんはアラスカの自然や動物たち、そしてそこで暮らす人々の生活を『フル・ライフ』という言葉を使って表現されています。~その言葉はおそらく、“精一杯、命を燃やし尽くすことなしには生き抜くことができない”… といった意味ではないかと思っています。
 一月のこの時期、かつて星野さんが住んでいたアラスカのフェアバンクスという街では太陽が十時すぎに少しだけ上がって、十四時前にはもう沈んでしまいます。それも地平線からちょっと顔を出す程度で、朝日と夕日が同じような感じですぐに沈んでしまうそうです。そんなアラスカに住む人々は、いつも太陽が描く弧の大きさを気にかけているといいます。しかし日本に住んでいる私たちは、おそらくそこまで太陽のことを気にかけてはいないでしょう。それが幸せなことなのか?、それとも不幸せなことなのか?…アラスカに住む人々にとって、太陽は輝く宝石にもまして貴重でありがたい存在にちがいありません。しかし私たち日本人にとっては、それがただあたりまえの存在として感じられることが多いのです。
 美輪明宏さんがしばしば、『正負の法則』という言葉をお使いになります。それは多彩な意味を含む言葉ですが、“苦労した分だけ、報われる喜びがある”―という意味もあると思います。水道の蛇口をひねればすぐに出てくる水の味と、山道を汗をかきかき歩いてようやく出会った清水の味とは、格段に違います。そう考えていると、少なくとも「幸せとは苦労が少なくてラクチンなこと。苦労が多いのは不幸せなこと。」―という定義はあたらないように思えてきます。
 星野さんの言葉に耳を傾けていますと、アラスカのような自然の中で生活してみたくなることがあります。しかし星野さんはただ自然界とそこに暮らす人々・動物たちの真実、そしてそれに関してご自分が感じたことを私たちに伝えてくださるだけで、決して私たちに「あなたもアラスカで暮らそうよ」とは言いません。きっとそれは一人一人が体感すべき各々のテーマであることを、星野さんはよくわかっていらっしゃるからだと思います。
 とてもシンプルな言葉の数々ですが、今、星野道夫さんの声が私の心に響いてきます。

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