心療内科医のココロ
「これからはますます心療内科が注目されるようになる」
「21世紀は、こころの時代になるだろう」・・・
私が医者になった1990年代、いやその10年以上前から何度も何度も繰り返されてきた言葉です。
しかし、果たして実際にそうなってきたのでしょうか?
私が心療内科医になろうと決心したのは、九州大学の医学生として学生実習で全科を回った時でした。患者さんの体だけでなく、その人の生活環境や人格としての特性も考慮しながら、一番時間をかけて診療をしていると感じたのが、ほかでもない心療内科だったからです。
しかし今、私のカウンセリングルームへ訪ねて来た方々のお話を聴くと、「意を決して心療内科(あるいは精神科)にかかったのに、ものの5分と話を聞いてもらえなかった」と不満をもらされる方がたくさんいらっしゃるのです。
もちろん、国家政策としての医療保険点数の問題などもあるでしょう。
心療内科などで、身体的傷病と心理・社会的要因との関連を明らかにし、心理的影響を与えて症状の改善、または傷病からの回復を図る『心身医学療法』に対して与えられる診療報酬はわずか800円(通院で再診の場合)。つまりそのような心療内科的な診察に対して、医療保険上はわずか800円しか報酬が得られないということなのです。これでは医者がわざわざ時間をかけて患者さんのお話を聞いても診療報酬におけるメリットはあまりありません。むしろ投薬や検査を多く行った方が病院の利益があがる…ということになってしまいます。医者といえども家族の生活を支えスタッフに給料を出すといった現実的な経済問題は避けて通れませんから、理想は横において現実をとらざるをえないという場合もあるでしょう。
それにしても…。
それにしても『心療内科』の看板を掲げて診療をするかぎりは、初めて来た患者さんが今、何に困っているのか、どのような経緯でそうなったのか…といったアウトラインぐらいは、せめて10分や15分かけて聴いてあげる義務があると思います。
毎回毎回は無理でも、「必要な時にはできるだけ話を聴こうと努力してくれる先生」という意識を持っていただくことが患者と医者との関係を良くし、それが症状の改善にもつながってくると思うからです。
でも最終的に、私はこれらのことがシステムだけの問題だとは思っていません。
要は、医者の側の意識の問題です。
現時点では、心療内科へ受診したいという方は多くても、少なくとも私が住んでいる横浜などの都市部では医療機関の数が不足している状況です。多少、「あまり話を聞いてくれない先生だ」と思っていても、近くには他に心療内科がなかったり、職場の行き帰りに通院するのに便利だ、といった他の理由で通院を続けている方もたくさんいらっしゃると思います。
しかし、もし将来的に心療内科の数が増えてくれば、医者の側も良い意味でのサービス向上に努めなければやっていけなくなるでしょう。(本当に親身になってお話を聴こうとしても、3分診療に慣れてしまった意識では、その時にはもうすでに遅いと思いますが…)
それでも私の知っている先生のなかには、じつに優れた心療内科・精神科医もいます。
たくさんの患者さんを抱えているなかで、短時間で的確な薬を処方し、症状から薬の変更が必要だと思われる場合は積極的に処方の見直しを行い、大事なことはきちんと患者さんに伝え、必要な時にはしっかりと患者さんのお話を受けとめる…。
これらのことを同時に行うのは大変なことで、今は必ずしも医者の数が多くて競争が激しいとはいえない時期だけに、全体のレベルも低下しがちなのです。
こんな折、患者さんの側-つまり一般の方-は自衛策としての情報の収集に努めておられます。世はインターネットの時代。症状や病名に関することから薬のことまで、それぞれのオリジナルなやり方で熱心に勉強されているのです。
「もう、医者だけには頼れない!」…そんな叫びが聞こえてきそうな勢いです。
しかし残念なことに、診察などの現場で患者さんが集めてきた情報をお聴きしてみると、臨床の実状には合わない内容がたくさんあります。
書店で手にする書籍の中身は玉石混淆。インターネットの掲示板やチャットで得た情報は、いかにも表に出てきにくいリアルさにあふれているようですが、臨床の現場を長く経験した者の目から見ると「?」というものばかりだったりします。
私は2004年の秋からカウンセリングルームを開きました。
それまでは先輩の先生方のご協力もあって、心療内科での診療にも比較的時間をかけさせていただいていたのですが、患者さんも増えるなどしてそろそろ限界だと感じたのです。
それぞれの医者にはそれぞれのやり方があって、とくに心療内科や精神科ではそのちがいがより鮮明なのではないかと思います。私の場合はずっと「できるだけ時間をかけて話を聴く」というスタイルでやってきたのですが、自分が思うような診療をさせていただくことで勤めていた病院やクリニックにもご迷惑をかけるようになってきたと思いました。
そこで医療機関ではなく、保険診療でもなくなってしまうのですが、何でも自由に相談していただけて1時間程度ゆっくりお話ができるカウンセリングルームを開いたのです。
おかげさまで、それまで病院やクリニックでお話をさせていただいたのとは比べものにならないぐらい、ゆっくりと、生活全般にわたる本来の“カウンセリング”をさせていただくことができています。(もちろん、症状があるなどして薬の処方が必要と思われる方には、私が勤務させていただいている心療内科などへの受診もおすすめしています。)
ただ難点なのは、カウンセリングにもそれなりの料金をいただかなくては成り立たないということです。保険診療とちがって、なかなか「どなたにでも!」とお勧めできないところが苦しいところです。
そんなおもいもあって、読んでいただくことで心療内科で診る様々な症状のエッセンスや、カウンセリングでお伝えしている日常生活に役立つヒントを理解していただけるような文章を書きたいと思うようになりました。
私自身、日本に「こころの時代」はまだ来ていないと思っています。
でも私の生きているうちに皆さんから、『こころの時代がやって来たのかもしれない…』と思っていただけるよう、少しでもお手伝いできればと思っています。
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