みなさんは、佐藤琢磨さんを知っていますか?
今は知らないかもしれないけれど、たぶん半年もすれば日本中の人がその名前を覚えてしまうでしょう…。
世界に20人しかいないF-1パイロットの一人として、あのアイルトン・セナと同じホンダ・エンジンを駆って奮闘している佐藤琢磨選手は、大学時代は全日本学生選手権で優勝するなど自転車競技の選手でした。それが、10歳の時に鈴鹿サーキットで観戦したF-1日本グランプリでのセナの走りへの感動を忘れられず、年齢的にはギリギリ最後のチャンスだったが自ら大学を休学してレースの世界へ転向。その後、今でも実際にはその基盤はヨーロッパの文化圏に根差しているF-1を目指すため、敢えてイギリスのF3レースに参戦し優勝。今でも外国人プレスからのインタビューにはすべて流暢な英語で答えるという、たいへんな努力家なのです。
つい先日、ここ4年連続でF-1の年間チャンピオンに輝いているフェラーリ、ミハエル・シューマッハーの地元ドイツで、今季F-1第7戦・ヨーロッパグランプリがおこなわれました。
日曜日のレースでスタートする順番を決める土曜日の予選で、佐藤琢磨は日本初の2位。
いつもは日曜の深夜に中継されるF-1はビデオにとっておいて後日に観戦する私ですが、今回ばかりは翌日の仕事のことは忘れ、夜遅くテレビの前に集中してスタンバイしました。
レース終盤まで、1位のシューマッハにはやや水を空けられた佐藤琢磨でしたが、3位以内をキープ。私たちの目にも、初の表彰台はもはやまちがいないように思われました。
そして、ピットストップで先を越されてしまったシューマッハーのチームメイト・2位バリチェロを、見ている私たちの方が驚いてしまうほどあっという間に追いつめ、追い抜こうとしたその瞬間!バリチェロと接触し、車にダメージを受けたのは琢磨の方でした。フロントノーズを破損し、再びピットイン。ノーズ交換にやや手間どったものの、レースに復帰。残り10週余りでどこまで追い上げられるか?と思ったその時、エンジンから突然白煙があがり、無念のリタイアとなってしまいました。
テレビの解説者も、そして観ていた私も、「なぜ、琢磨はあのタイミングでバリチェロを抜き去ろうとしたのだろう。あれからもっと慎重に行けば、いくらでも安全に追い抜くチャンスはあったのに…。」と思ったものでした。
ところが、優勝したミハエル・シューマッハーのレース後のインタビューを見て、考えが変わりました。
“Takuma is quick.”
シューマッハーの地元であるドイツで、そして全世界へと中継される公式インタビューの場で、『琢磨は速い』とはっきりと口にした世界チャンピオン。そこに私は、次世代のチャンピオン候補である琢磨に対する、現チャンピオンからの目に見えないエールを感じたのです。
思えば、若いころのアイルトン・セナは、ただ“速い”ことだけを追求して走りつづけ、「もっとプロストのようにレース運びがうまくならなければ…」と、あちこちから苦言を呈されたものでした。
シューマッハーだって昔は今よりずっと攻撃的で、最終戦で優勝争いをしていたジャック・ビルヌーブに自分の方から接触してゆき、全戦分のポイントを剥奪されたこともあった。
あまりに果敢なために責められることさえあるが、それでチャンピオンになれる者と、そうでない者とのちがい。…
シューマッハーには、それが分かっていたのではないでしょうか。
だから、佐藤琢磨と同じBARホンダ・チームのジェンソン・バトンはこの第7戦を終えた段階で、琢磨のドライバーズ・ポイント8点に対して38点と大きく上回ってはいるけれど、シューマッハーにとっては脅威ではない。
むしろシューマッハーは自分やセナと同じように、チャンピオンとしての資質とそのスピリットをもった“サトウ・タクマ”を、認めているのではないでしょうか。
それにしてもジェンソン…お願いだから、琢磨のことを『タキューマ』と呼ぶのはやめにしてくれないかな。
聞いていると何だか恥ずかしいから、“タクマ”と同じ日本人としてお願いしておくよ。
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